前回のエントリーに引き続き、現在の日本のゲーム業界サードパーティーの苦労に思いを馳せるお話です。
皆さん、ゲームメーカーがビジネスを成功させる為に、最も必要なものは何だと思いますか?
優秀なクリエイター?
豊富な開発資金?
技術とノウハウ?
巧みな販売戦略?
これらが重要なのは確かです。あればあるほど良いです。
が、しかし。これら全てが揃っていたとしても、ある1点が欠けるともうゲームメーカーはガタガタになるんですよ…。
特に、ゲーム開発者を目指している方などは、クリエイターが一番重要だと考えがちですが、実際はそうでもなかったりするんですよね。会社勤めをしていれば段々と分かることなのですけど。
それはつまり、儲かっているメーカーが持っていて、儲かっていないメーカーが持っていないものです。
運の良さ?
まあ、それも大事ですけど、単年度だけならともかく、2年3年と運だけで勝ち続けるのはちょっと無理がありますよね。
もったいぶるほど画期的な答えでもなんでもないので、サッサと行きます。
たった1つ必要なのは、「売れるゲーム企画を見分けられる経営者」です。もしくは、「『売れるゲーム企画を見分けられるプロデューサー』を見分けられる経営者」。
念の為加えておきますが、「仕様書や試作の段階で判断をつけられる人」ですよ?
完成したプレイアブルなソフトをプレイして「これは売れる」とか「売れない」とかいうだけなら、小学生にだってできるのですから。
この能力に長けた経営者さえいれば、自社に優秀なクリエイターもノウハウも必要ありません。外部ソフトハウスにコンペさせて外注すればいいんですから。
資金だって、まずは小規模のプロジェクトで当てて、徐々に信用、そして資金を集めればいいのです。
旧日本軍でも、官僚と政治家の関係でも、日本人の組織について語るとき、だいたい共通していわれることがあります。
「現場レベルの兵隊や指揮官は、勤勉で真面目で優秀。しかし、組織全体の未来図を示し、導ける指導者がいない」
日本民族の悲しいサガなのでしょうか…。
プログラマー、デザイナー、サウンド各1人、計3人の開発チーム×4ヶ月で1本のソフトが作れていたファミコン時代であれば、「現場レベルの優秀な指揮官」がいれば充分でした。
ソフト1本につき、数十人規模の開発チームと2年3年の月日に数億の開発費が必要になってしまった現在。1本コケれば会社全体がコケてしまう今の時代、3年4年先の市場を見越して経営計画を組み立てられる責任者がいなければ、開発現場のスタッフがどんなに優秀でも会社は安定し得ないのです。
いかに優秀な開発者だろうと、百発百中大ヒットというのはさすがに無理なのですから…。(まあ、世の中には百発百中に近い結果を出している奇跡みたいな例もありますけど奇跡はあくまで奇跡であって…)
大作ゲームというと大御所の有名クリエイターが手がけたものばかりなのを見て、ユーザーの方々は「有名人やシリーズ物の知名度に頼った作品ばかり出して…」と思うかも知れません。特に、プランナーやディレクター志望の若い方々にとっては、「経験者優遇」のこの業界の現状は、厳しいものでしょう。
大手ゲームメーカーが有名クリエイターをこぞって起用するのは、知名度や固定ファンをアテにしているというだけの理由ではないのです。家庭用ゲーム機の歴史はまだたかだか30年ちょっと。大手ゲームメーカーのトップには、元々ゲームなどにまるで関心がなかった、たまたまゲーム事業が当たったから続けているというだけの人が今でも珍しくありません。
知名度を重視している、というレベルではないのです。「過去に有名ゲームソフトを作った人の企画である」という以外に、企画の良し悪しを判断する目を持っていない方々がゲーム会社のトップなのですよ。
仕事だという以外の理由ではゲームに関心が無く、自らゲームを制作した経験もないから仕様書段階ではどんなものが出来上がるのか想像つかないのだから仕方ありません。
「なら、そんなトップととっとと更迭して、企画の良し悪しを判断できる人を社長に据えればいいじゃないか!」
そうおっしゃる方もいるかもしれませんが、これがなかなか難しいのですよ。
まあ世間一般のサラリーマン社会故の難しさもあるのですが、もう1つ、ゲーム業界ならではの事情がありまして。
先に述べたように、必ずしもトップが交代しなければならないわけではありません。社長は経営に専念するとして、仕様書段階で判断をつけられるプロデューサーを役員なりに抜擢して開発関係の権限を与える、というのでも何とかなるかもしれません。
ではこれからの時代のゲーム会社が利益を上げて存続する為に、そしてユーザーさん側としては安定して新作ゲームをプレイできる環境が保たれる為に必要な、その「目利きのプロデューサー」というのはどんな人でしょう?
ヒットする企画を見抜く技量を養うには、やはり自分自身がヒットしたゲームを作った経験が必要でしょう。プロジェクトの可否を判断する為には、仕様書を読めるというだけではなく、予定されている開発スタッフで、予算及び予定期間内でその企画を実現できるかどうかまで考慮する必要があるわけで、やはり経験者でないと難しいところですから。
そしてもう1つ必要な条件は、その人自身は開発プロジェクトの中枢から外れることです。
やはり、自分自身が手がけているプロジェクトと、他のプロジェクトとを「公平に判断しろ」といったところでそりゃあ無理っていうものです。自身のプロジェクトには思い入れがあるに決まっています。
逆に、自分たちのプロジェクトに思い入れのないプロジェクトリーダーだなんて、他のメンバーたちの信頼を得られるわけがありませんし、また他チームにしてみればどうしても不公平感があります。
企画の目利きができるというのは、売り上げ面で貢献するだけではないんです。他の社員たちが「あの人がいうんだからこの企画は大成功する!」と自信と期待を持てるという点が大いに重要です。むしろそちらのほうが大きいくらいかも知れません。
開発スタッフのモチベーションというのは、ゲームのような娯楽作品の制作において非常に大事なのです。
さて、つまりはこういうことです。
「ヒットしたゲームを含めてゲーム開発プロジェクトを率いた経験が豊富で、マネジメントや経営の知識が身についている人を、開発現場から外して責任者の地位に置けばゲーム会社は安泰」。
「はぁ? なんでそんな簡単なことがすぐにできないの?」とお思いになるかもしれません。
ゲーム業界以外の方なら。
ゲーム雑誌などを熱心に読んでいらっしゃるゲームマニアの方なら、きっとお1人お2人、思い当たる方がいると思うんですよね、「ゲーム会社で有名ヒットゲームの開発にいくつも携わっててけっこう偉そうな肩書きもついていて、何か失敗したわけでも会社でトラブルがあったわけでもなさそうなのに、なぜか突然会社を辞めて独立しちゃった有名クリエイター」。
彼らが(表から見ると)いきなり会社を辞めてしまう理由の一端、なんとなくお分かりいただけたでしょうか?(もちろん、全員が全員これというわけではありませんけど)
だって、ですよ?
開発の責任者って、要は「自分がGOサイン出したゲームがヒットしたときに褒められるのはそれを作ったクリエイターで、コケたときに責められるのは自分」って立場ですよ?!
自分が手を出しちゃいけないんですよ?!
誰がやりたがるもんですか、そんなつまんない仕事!
役員にして給料上げてやるっていわれたところで、とても割りに合いません。それなら独立して、小さな会社の一介のクリエイターとなってでも、自由に開発に携わったほうが、よっぽど楽しいってものでしょう。
や、別にわたしが「役員になれ」といわれた訳じゃないんですけどね、言うまでもありませんけど。
現在のゲーム業界が抱える問題といえば開発費の高騰をはじめとして様々いわれてはいるわけですが、ゲームマスコミが決して書けない、こんなゲーム会社の内部事情もあったりするわけです(そりゃ書けませんよね、広告出稿してくれる大事なお客さんに向かって「あんたのとこの社長の判断力が無いからだ」、なんて)。
さて、この問題を解決するにはどうしたらいいのでしょう?
…えーと、大手メーカーを辞めてしまったそこの有名クリエイターのあなた! 今後のゲーム業界の為にも、元の会社に戻ったりしてくださったりは…?
え? そんなの元の会社が拒否する??
そうなんですよねー、日本の企業って、そういうとこ閉鎖的っていうか村社会気質っていうか、裏切り者は許さないっていうか…。
でも、ですね。まさにその、ヒットゲームの開発プロジェクトを率いた経験があり、経営センスも備えた、しかも生え抜きでない、関連会社の社員に全権を渡して社長に抜擢し、その新社長は開発現場からキッパリ離れて「つまんない仕事」に専念し、オーナー社長であった前社長はキッパリ引退してみせたとあるゲーム会社だけが、ゲーム業界が苦境といわれる今、いわゆるブルーオーシャンを悠々と泳いでいるのは紛れも無く現実なのですよ…。
美夜さん
うーむ、確かにこれは外側から見てるとわからないですね。ある程度出来上がってからの外部の人とかにやってもらうクオリティチェックやテスト以前の問題ですもんね、しかもその段階ではすでにPJは進んでしまい投資コストかかってるし。仕様書や試作の段階(投資前)で判断をつけられる人は経営上、確かに重要ですわ。
でも作り手からするとやっぱそのポディションはつまんないでしょうね。ただ確かにいま順調なゲーム会社はそのポディションの人の顔が思い浮かぶ…
任天堂の社長も元プログラマーですしね(心は今も開発者だと言ってますが)。前社長もいろいろありましたが、彼を抜擢した点はやはり優れた経営者だな、と思います。就任後据え置きでは不調の時期も作品の質が良くて今のWiiにも資産として生きてるし。
辞めた人が戻れない環境は同意です、古い会社だと女性で出産して戻ってきても元の部署に居れなかったり…。
モチベーションが大きく影響するのは確かなので、すごくよくわかりました。でもこのトレードオフ(作り手か開発最終責任者かの選択)で辞めちゃう人が多いイメージがあるので、仕事としてはつまんない方を選んでくれる人ってやっぱそう多くないのかもしれませんね。うーん、難しい…
>kt- さん
はい、まあ、「つまんない」と言い切ってしまうのも失礼ではあるのですが(今さら遅いですが(笑))、正直、開発畑でずっと上手くやってきた人で、社長と開発の間などという辛い役目を進んで引き受けたがる人はまず稀でしょう…。
日本のゲーム業界の未来がどーたらとか、海外のゲーム業界に負けるの何のという議論はわたしは関心無いのですが、このへんは特に日本のゲーム会社にとってネックなのは確かだと思います。比較的転職が盛んな業界ではありますが、欧米並みとまではいきませんしね…。
紫月さん、こんばんは。半年ぶりに覗いたらこんな記事が・・。
これ読んで、メディアワークスを92年に立ち上げた角川歴彦氏のことを真っ先に思い出しました。文庫部門の電撃文庫は歴彦氏がこのつまらない役を買って出て、佐藤社長と組んで無敵の一大帝国を築き上げたのは言うまでもないですね。
今後の時代の象徴である、飛び抜けた一強+その他の雑魚っていう図式を作ったのはこういう問題が解決しないと無くならないと思うし、産業全体が盛り上がっていきませんよね。
切込隊長のブログも読みましたけど、今成功できるゲームビジネスってTommy walkerやアイドルマスターみたいに基本素材とシステムを整備体現化して、あとはユーザーの皆さんが好き勝手に改良して遊んでいく同人的なふれあいを重視した作品が受けると思うのだけど、本業の方はどう思いますか?
もう今の若者は上から教授されて降りてくるモノに対して関心沸かないから、ユーザーと同じ目線で「俺でもネットで他人と競ってゲーム内でヒーローなれる!!」っていうような作品作らないと厳しいと思います。少なくても初回のセールスだけで売り上げを一杯稼ごうっていう、かつてのビジネス戦略はもう通用しないと思うし、初回の売り上げからユーザーがニコニコ動画とかで面白さをPRしてセカンドセールスのムーヴメントを作っていくほうがよほど建設的だと思います。
長文コメント失礼しました。
>XEER さん
こんにちは!
旅行に行っていたもので、レス遅くなってしまい申し訳ないです。
>基本素材とシステムを整備体現化して、あとはユーザーの皆さんが好き勝手に改良して遊んでいく同人的なふれあいを重視した作品が受けると思うのだけど、本業の方はどう思いますか?
「好き勝手に改良」が、例えばニコニコでのMADなどの二次創作のことを指していらっしゃるのであれば、これらに関しては日本のゲーム会社としてはさして目新しいものではありません。「ユーザーさんたちが二次創作で勝手にワイワイ盛り上がってくれる」前例として、日本には以前から同人誌というものがあるからです。
同人誌に比べて基本無料なので法的な問題も減るし制作の敷居は下がり潜在的ユーザー層は広がり、まあ要するに良い方向への進化版といったところでしょうか。
もし、もっと直接ゲームに関わる「改良」についてでしたら、こちらの2006年のわたしの記事の前半に書いた通りです。
http://www.purplemoon.jp/blog/2006/10/mod.html
理想と現実と考えが良い感じにずれています。
全部記事読みましたが、残念!!!